月別アーカイブ: 2015年8月

怖いグリム童話「犬と雀」

暑さもだいぶやわらいできたような気がします。
怖い話で量を取りたい季節もそろそろ終わりですが、今日紹介する話もちょっぴりホラー。

グリム童話から「犬と雀」です。
「悉平太郎」とは違った、グリムらしい怖さがあります。
こんな話です。

 
ろくに餌もくれない主人に嫌気がさして、牧羊犬は家出をしました。
道々雀と出会って、お腹が空いていることを話すと雀が「いっしょに町に来ればお腹いっぱいにしてあげる」と言います。
雀は町に着くと犬のために肉や、パンを盗んで犬に食べさせてやりました。
満腹になった犬はしばらく歩くと疲れて眠ってしまうのですが道ばたで寝ていたため、やって来た荷馬車に轢き殺されてしまいます。

そこで雀はどうしたのかというと……怒り狂ったのです。

狂気に取り憑かれた雀は積み荷のワインをすべて駄目にし、馬車馬の目玉を抉り出しました。
怒った馬方が雀を殺そうと斧を振りかぶるとひょいっと避け、斬撃を馬に浴びせることに成功します。
同じ要領で三頭の馬すべてを殺しましたが雀は満足しません。

「もっと不幸にしてやる」

雀は言いました。

馬方が家に帰ればたくさんの鳥を引き連れて、馬方の家の小麦を食い荒らしました。
怒った馬方が斧を振り回し家の中はめちゃくちゃ。

ようやく雀を捕まえた馬方は雀を丸呑みにしましたが、すぐに雀は喉まで上がってきて馬方の口から顔を覗かせました。
馬方はおかみさんに雀を殺すよう依頼しますがかち割られたのは雀の頭ではなく、馬方の頭でした。

 
犬はあっさり死んでしまいますが、あっさり死んでしまうからこそその存在が際立っているような気がします。
いったい、犬と雀はどんな関係だったのでしょうか。

雀はなんでこんなに犬に親切なんだろう?
と「犬と雀」を読んだすべての人が思うことでしょう。

仮に雀が出会ったばかりの犬のため馬方を葬ったのだとしたらこの雀、絶対敵に回したくないですね。
怖すぎです。
1匹と1羽が元々知り合いだったとしたら自然ですが、読んだ印象だとなんとなく違う気がします。
私は犬と雀が知り合いだったというより一方的に雀が犬のことを知っていたのでは。と思うんです。

犬があっという間に退場してしまうので犬から雀に対する執着心はまるで感じられません。
それに対して雀は犬に対して特別な思い入れがありそうです。

馬方殺人事件を振り返ってみると、どうも雀は直情的な性格をしている模様。
ここでふと、ある可能性が思い浮かんできました。

雀が犬のストーカーだった可能性です。
ストーカーといっても見守り型というか…星 明子(画像左下の人)みたいな感じをイメージしています。

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物陰から犬を見つめる雀。

「犬さん……今日もすてき……」

しかし憧れの犬さんに話しかけるきっかけを掴めずにいました。
そんなところに家出してきた犬さんが現れるんです。

犬を轢き殺した馬方を恨む気持ちも分かります。

犬と雀の関係を不明瞭にしたままだとひたすら怖いですが、童話なので何か意味がある筈です。

うーん。外見で判断してはいけないという戒めでしょうか?
雀の生態を調べてみても凶暴な鳥には思えないんですよね。

温厚だと思っていたひとも怒らせたらとんでもないことになるかもよ?
の方が近いかもしれません。

僧侶と悉平太郎VSヒヒ!

そろそろ立秋ですがまだまだ暑いですし、ちょっぴり怖い犬の話を探してみました。
『悉平太郎(しっぺいたろう)』というお話です。

 
あらすじ
ある村では毎年神様に年頃の娘を生け贄に捧げていました。
捧げられた娘は神様に食い殺されてしまうので村人は悲しみますが、しきたりを破ることはできません。

偶然村を通りかかった修行僧が村の事情を知ることになり解決策を練ります。
僧は妖怪が悪さをしていることをつきとめ、さらに「悉平太郎」なるものが妖怪の弱点であることを知りました。

僧は旅をして「悉平太郎」を見つけ出します。
驚くべきことにこの「悉平太郎」というのは犬だったのです。
犬が妖怪の弱点というのは本当だろうか、と僧が訝っているとどうしたことでしょう。懐にしまっていた竹箆(しっぺい)が輝き出しました。
僧は悉平太郎から不思議な力を感じ信じてみることにしました。

生け贄を捧げる際、柩に娘を入れて運ぶのですがこのときは娘の代わりに僧と悉平太郎が柩に入りました。
村人たちが柩を置いて離れると山の方から巨大なヒヒが現れます。

すると再び竹箆がまばゆい光を放ち、悉平太郎を吸収してしまいました。
僧の全身から力が溢れてきます。
今なら確実にヒヒを倒せる! と思った僧は渾身の念を竹箆に込めました。
「破ァ!!!!」
ヒヒは粉微塵になり村には平和が訪れたそうです。
その後、僧は人知れず村から消え、伝説だけが残りました。
(完)

 
…………というのは嘘あらすじです。

本当の悉平太郎では極普通に悉平太郎を迎えに行き、いっしょにヒヒに立ち向かい、悉平太郎がヒヒを噛み殺して終わります。

ヒヒと戦った後のことは諸説ありました。
悉平太郎はその場で死んでしまったり、元々暮らしていた寺まで無事帰ることができ祀られることになったり。

原話は宇治拾遺物語の『吾妻人生贄を止むる事』。かと思われます。
こちらの話だと主人公は犬ではなく、僧のように村を訪れる狩人です。
犬がどうなったのかは書かれていません。

 
私が読んだ「悉平太郎」系の話だと僧は無事村を出られるのですが一歩間違えば危なかったですよね。
村人たちは妖怪を神様だと妄信していたわけですから。
「これは妖怪です」と説得しても「荒神様なんじゃーー! なんで殺したーー!」ってリンチされていた可能性もあったと思います。
登場人物が僧侶なのも説得力を持たせるため、なのかもしれませんね。

ただの旅人の言うことは信じられないけど御仏に仕える坊さんが「神様ではなく妖怪だ」と言えば信じられる、と。
もしかしてこの話は「物事はまず自分の頭で考えましょう」ということなんでしょうか……。

ちなみに「竹箆」というのは禅宗で修行するときに人を打つのに使う平たい竹製の杖のこと。
しっぺの語源とも言われています。
犬の名前に竹箆? という気もしますが悉平太郎は元々寺暮らしだったので名付け親はお坊さんでしょう。
竹箆は修行僧を導く大事な杖らしいので、旅の僧侶を導く犬の名前だと思えば納得です。

(よく座禅でパーーーン、とやっている棒は竹箆ではなく警策。警策は木製で、竹箆よりさらに平たいところが違います。警策で打たれるより痛そうです。)